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東京高等裁判所 昭和44年(う)2734号 判決

主文

原判決中被告人大河原寅夫に関する部分を破棄する。

被告人を懲役五月に処する。押収中のわいせつ写真五〇組三九九枚(静岡地方裁判所浜松支部昭和四四年押第七六号の四)、茶封筒入り七組五六枚(同押号の五)、一組一〇枚(同押号の六)、八枚(同押号の七)、四組三二枚(同押号の八)、三六組二八八枚(同押号の一〇)、一組六枚(同押号の一一)、焦茶色ボストンバック一個(同押号の九)を没収する。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人鈴木俊二の控訴趣意書に記載されたとおりであるからこれを引用する。

所論は、量刑不当の主張であつて、本件所持は青少年を対象とする販売を目的としたものではなく、これにより何等の利得もしなかつたのであるから原判決の科刑は不当に重いというのである。

よつて、まず職権により調査すると、原判決は被告人の判示第二及び第三の各わいせつ図画販売目的所持の所為を併合罪として処断しているが、記録によると、被告人の所持した本件わいせつ写真は、被告人が原審相被告人玉木志和から、販売の目的をもつて一括して買い受けた約九四〇枚の一部であつて、そのうち約四〇〇枚を原判示の日に販売の目的をもつて高林明男ほか二名とともに、東名高速道路浜名湖サービスエリア構内において携帯(原判示第三の事実)する一方残余の三九九枚を同様の目的をもつて同日原判示被告人の自宅に蔵置(原判示第二の事実)していたものであることが認められる。ところで刑法第一七五条前段にいわゆる「販売」とは不特定又は多数の者に対して反復の意思をもつて有償譲渡することをいい、その日時、場所、相手方売却の態様を異にする場合も、これが単一の意思に出でその日時において近接するときはこれを包括的に観察して一罪を構成するものと解するのが相当であることにかんがみ、同条後段にいわゆる、販売の目的をもつてする「所持」についても、これと同趣旨に解すべく、すなわち右所持とは、販売の目的をもつてこれを事実上の支配下におくことをいい、事実上の支配関係が、その日時、場所、態様を異にするときも単一の意思に出でその日持において近接する限りこれを包括一罪をなすものと解するのが相当であるから、前示事実関係の下における被告人の本件わいせつ写真所持の所為は、単一の意思に出で包括一罪をなすものと解すべきである。されば原判決がこれを併合罪として処断したのは法令の適用を誤つた違法があり、この誤りは判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、原判決中被告人に関する部分は、破棄を免れない。

よつて本件控訴は、被告人の控訴趣意に対する判断をまつまでもなく、その理由あるに帰するから、刑事訴訟法第三九七条、第三八〇条によつて原判決を破棄し、同法第四〇〇条但書により、被告事件について更に判決する。

原判決の認定した第二、第三の犯罪事実及び前科につき法律を適用すると、右二個の所持は包括一罪として刑法第一七五条後段、罰金等臨時措置法第二条、第三条第一項第一号にあたるので所定刑中懲役刑を選択し、原判示前科があるので刑法第五六条、第五七条によつて再犯の加重をなした刑期範囲内において、所論にかんがみ、本件行為の罪質、動機、態様、被告人がわいせつ図画販売罪により昭和四四年八月二二日富士簡易裁判所で罰金五万円に処せられた直後の犯行であること、その他の前科、被告人の生活態度等を勘案し、所論の諸事情をも斟酌して被告人を懲役五月に処し、押収中のわいせつ写真五〇組三九九枚(原裁判所昭和四四年第七六号の四)は原判示第二の、茶封筒入り七組五六枚(同押号の五)一組一〇枚(同押号の六)、八枚(同押号の七)、四組三二枚(同押号の八)、三六組二八八枚(同押号の一〇)、一組六枚(同押号の一一)は、いずれも原判示第三の各犯罪行為の組成物件であり、同じく焦茶色ボストンバック一個(同押号の九)は原判示第三の犯罪行為の用に供したもので、以上は何れも被告人以外の者に属しないから刑法第一九条第一項第一号、第二号第二項を適用してこれを没収することとし、原審における訴訟費用は、刑事訴訟法第一八一条第一項但書により、被告人に負担させないこととして主文のとおり判決する。(遠藤吉彦 青柳文雄 菅間英男)

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